朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
農業国フランスの危機 2024.2エッセイ・リストback|next

パリ封鎖をねらった農民デモ
※画像をクリックで拡大
 2024年の正月、日本は能登地震と羽田空港の衝突事故で明け、自民党政治資金の裏金化問題が後を継いで、この先、尋常ならぬ雲行きだ。
 フランスでも同じことが言えそうだ。暮れから正月にかけてPas-de-Calais県やIle-de-France地域圏が未曽有の洪水に見舞われる一方、農民の不満が爆発し、農業機械を連ねてパリに向ったデモ隊が首都周辺を包囲するにいたった。洪水の原因をたどると、Rhône河口、Camargueの渇水やスキー場の雪不足とともに、changement(réchauffement) climatique「地球温暖化」に行きつく。では、農民デモの方はどうか?フィガロ紙は、高級官僚出身で祖国没落を見越した警世の著書で知られる評論家Nicolas BaverezによるL’euthanasie de l’agriculture française「フランス農業の安楽死」という記事を掲げて、デモの背景を掘り下げようとした。(1月29日付)  冒頭で、繰り返される抗議運動との共通点を認めた後、農民運動はsyndicats professionnels「組合」指導であって、revendications「要求項目」が明確な点で異だとし、こう続ける。
 La suppression de la déduction dont bénéficiait le diesel agricole n’a été que le détonateur de la bombe économique, sociale et politique qu’est devenue l’agriculture française. Sa situation est à la fois paradoxale et déséspérée. La production et la souveraineté alimentaires sont redevenues des enjeux décisifs, au moment où 820 millions des 8 milliards d’hommes souffrent de sous-nutrition et où la Russie a transformé l’alimentation en arme de guerre. Pourtant, l’agriculture qui a longtemps été l’un des points forts de notre économie, dégageant des excédents commerciaux élevés, est en voie d’effondrement.
 「農業機械燃料割引制度の廃止は起爆剤になっただけで、そもそもフランス農業は経済・社会・政治の爆弾になっていたのだ。農業の現状は逆説的であるが、絶望的でもある。80億の内、8億2千万人が栄養不足に喘ぎ、ロシアが食糧を武器に変えてしまった今日、食糧生産と食糧主権はあらためて決定的な争点になった。ところが、農業は、高い貿易黒字を出してながらく我が国経済の強みの一つだったのに、今や崩壊しつつある」
 食糧の価値が高まった今になって、農業国と思われていたフランスが衰退しつつあるという現実をアピールしようという記事なのだ。なるほど逆説的な状況だが、はたして、この主張にはどんな裏付けがあるのか。記事はつづく。
 La valeur ajoutée de l’agriculture stagne depuis un quart de siècle et ne représente plus que 1,8 % de la production française.
 「農業の付加価値は4半世紀以来停滞し、今では国内生産の1.8%にしかなっていない」
その後、具体的な数字がならぶ。全国の農場の数は今では39万にとどまり、しかもその内10%が破産状態にある。他方、一般農家の18%は貧困生活すれすれの状態にあるばかりか、2024年には9%の収入減が見込まれている。
 La compétitivité s’est écroulée, débouchant sur le recul des exportations du 2e au 5e rang mondial en vingt ans, largement derrière les Pays-Bas et l’Allemagne, tandis que les importations ont triplé.
 「競争力はガタ落ちで、20年の間に農産物・食料品輸出額世界ランキングの2位から5位に後退し、オランダとドイツに大きく水をあけられた。その一方、輸入額は3倍に増えた」
 なるほどグローバル・ノート(2023年10月31日更新)を見ると、米国、オランダ、ブラジル、ドイツ、フランス、中国、カナダのような順位になっている。因みに、韓国は41位、日本は44位だ。
 どうしてこんな事態に陥ったのか。
 L’agriculture est victime d’un suicide forcé organisé par les pouvoirs publics français et européens.
 「農業はフランス公権力およびEU公権力が仕組んだ強制自殺の犠牲者である」
 こう断定する筆者は、国の内外から衰退の原因を拾い上げる。
 国内的には、税金や社会保障費の負担に加えて、substances actives「活性物質」の使用制限(EUでは454種の使用が認められているのに、国内では309種に留まる)が指摘される。さらに注目されるのは、次の点だ。
 L’innovation est interdite de jure ou de facto, comme on l’a vu avec la génomique, les biotechnologiies ou la captation du carbone. Les investissements nécessaires à l’adaptation climatique sont condamnés et saccagés en toute impunité, à l’image des retenues d’eau.
 「技術革新は法律上も実際上も禁じられている。ゲノム研究や生物工学あるいは炭素捕獲の場合と同じように。気候変動への対応に必要な投資は禁じられ、削減されてしまうが罰せられることはない、貯水池開発の場合と同じように」
 貯水池開発の場合というのは、せっかく渇水対策として企図されたのに、環境保護派の反対で阻止されたことを筆者は特記したかったのだろう。それはともかく、フランスの現状が筆者のいう通りだとすると、農地面積が6割にすぎないオランダに抜かれたのも当然だと思われる。

ガブリエル・アタル首相
※画像をクリックで拡大
 筆者は、EUの政策にも、フランス農業衰退の原因を帰そうとする。
 Avec « From Farm to Fork »,l’Union a sacrifié sa production et sa souveraineté alimentaires à la réduction des émissions de 50% d’ici à 2030. Elle a programmé la mise en jachère de 10% de terres et la diminution drastique de tous les produits phytosanitaires, quand bien même ils n’ont aucun substitut. Avec pour conséquence la chute de 15% de la production, de 16% des revenus des agriculteurs, l’envolée des importations de colza,de soja, de tournesol, de bœuf, de fruits et de légumes, le basculement dans la famine de 30 à 180 millions de personnes dans le monde—notamment en Afrique.
 「2030年までに排出量を50%削減するため、EUは<農場から食卓まで>政策で生産量と食糧主権を犠牲にした。EUは農地の10%休耕地化と全植物検疫産品の思いきった削減を計画した、代用品がないのに。結果として、生産量は15%、農家の所得は16%減少し、アブラナ・大豆・ヒマワリ・牛肉・果物・野菜の輸入額が急騰し、世界(特にアフリカの)の3千万から1億8千万の人々を飢餓に追いこんでいる」
 下線の「排出量」のところ、複数なのは、有機農業推進に関連して農薬・肥料・殺虫剤などの削減がこまかく規制されているせいだと思われる。CO2の削減目標は55%のはずで、50%というのは大雑把な表示にとどまるようだ。それはともかく、このあたりの推論にはやや誇張があり、フランス農業が安楽死に追い込まれるという結論を急いだ感じがしないではない。
 しかし、農民デモを重大視したMacron大統領が内閣を改造し、les Verts「緑の党」に冷たいGabriel Attal氏を首相に迎え、EUのécologie punitive「懲罰的な環境保護政策」への反対姿勢をみせていることはまぎれもない事実で、今後の動向は注目に値するだろう。


追記  200回を超える既往のコラムの一部を選んで、紙媒体の冊子を作りました。題して「ア・プロポ――ふらんす語教師のクロニクル」。Amazon, 楽天ブックス三省堂書店(WEB)などオンラインショップで販売中です。
 


 
筆者プロフィールback|next

【NET NIHON S.A.R.L.】
Copyright (c)NET NIHON.All Rights Reserved
info@mon-paris.info