朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
トランプ時代の再来 2024.11エッセイ・リストback|next

トランプ勝利 ※画像をクリックで拡大
 「もしトラ」という流行語があったが、président éventuel「大統領になるかもしれない人」だったDonald Trumpが勝利し、閣僚の選定をちゃくちゃく進めて、就任まで2か月もあるのに、すでにアメリカ国内はもちろん世界中を支配してしまったかのような印象を与えている。trumpistes「トランプ支持者、トランプ主義者、トランプ派」はこの世の春を迎えたわけだ。
 しかし、就任時には78歳7か月になる(4年前、最高齢と言われたJoe Bidenの記録を抜いて)この老人、バイデン大統領就任を阻むべく支持者に議事堂を襲撃させた4年前とは打って変わり、国を統一させると尤もらしく主張する気紛れなお調子者を私たちはどこまで信用していいのだろう。
Les Français ne portent pas Donald Trump dans leur cœur. Alors que le milliardaire new-yorkais a été réélu président des États-Unis, plus des trois quarts des Français (76%) se disent «mécontents» par ce résultat, révèle un sondage réalisé par Odoxa-Backbone Consulting pour Le Figaro, publié ce jeudi 7 novembre. Le républicain se classe ainsi parmi les personnalités politiques internationales les moins appréciés des Français, aux côtés de Vladimir Poutine.
 「フランス国民はドナルド・トランプを心よく思っていない。ニューヨークの億万長者が合衆国大統領に再選されたのに、フランス人の四分の三以上(76パーセント)がこの結果に<不満>だと考えている、とフィガロ紙のためオドクサ=バックボーン・コンサルテイングが実施した世論調査(今日、11月7日公表の)が明かにした。同時に、トランプ大統領は、国際的な政治家の中で、ウラジーミル・プーチンとともにフランス人の評価が最低ランクであることもわかった」

 フィガロ紙(11月7日)は、この「不満」はフランスのみにとどまるものではないと考えた。そして、当のアメリカにも潜んでいることを窺がわせる二つの記事を載せた。
 一つ目は自殺者増に関するアメリカの日刊紙USA Todayの記事の紹介だ。 Un poste Instagram affirme que 2000 personnes se sont suicidées depuis l’élection de Trump, l’OMS dément l’information.
 「インスタグラムの投稿が、トランプ選出後、2000人の人が自殺したと確言したが、この情報を世界保健機構WHOが否定した」  投稿者はWHOの自殺防止プログラムから得た情報と主張した。すると、5000 likes en une seule journée.「たった1日の間に<いいね>が5千に達した」
  「今日のアメリカ」紙にWHOのスポークスマンが語ったところによれば、WHOはその種の日報 を出していない。出しているのはアメリカの団体Save(Safeguarding American Values for Everyone;l’oraganisation américaine de prevention contre le suicide「自殺防止を目的としたアメリカの団体」)だけだ。
 Si le post est viral [il] n’est plus disponible, il n’en fallait pas moins pour que l’information soit reprise par les utilisateurs de X: « plus de 2200 suicides rapportés depuis l’élection de Trump. C’est une statistique effrayante», écrit un utilisateur. « Les médias principaux doivent être tenus pour responsables de chacune de ces morts, de manipuler les émotions de personnes faibles psychologiquement, et souffrant de maladie mentale », a réagi un autre internaute.
 「この投稿がバズったにしても、すぐ削除された。それでも、この情報はXの利用者の手で拡散されずにはおかなかった。<トランプ当選後、2200人以上の自殺が報じられるなんて、ぞっとする統計だ>と書く人がいる一方、<主要マスコミはこれらの死亡の一つ一つについて責任を問われるべきだ、心理的に弱かったり、精神病にかかっている人たちをさんざん操つったのだから>と反応 する人もいた
 因みに、WHOによると世界全体の自殺者は年間72万の由。日本人の自殺数を見ると、今年1月に厚生労働省が「去年1年で2万1818人」と発表しているから、上の数字は異常に大きい。
二つ目の記事はdystopie「ディストピア(暗黒郷)」小説が大人気というもの。

La servante ecarlateの表紙 ※画像をクリックで拡大
 Les ventes de livres dystopiques montent en flèches depuis l’élection présidentielle américaine.
 「アメリカの大統領選挙以来、ディストピア関連書の売れ行きが急上昇している」 このあと、Barnes & Noble(アメリカ最大の書店チェーン)の販売責任者の意見が紹介される。
« Les livres de fiction et de non-fiction qui traitent du fascisme, du féminisme, des mondes dystopiques et des politiques de droite comme de gauche ont grimpé en flèche dans nos classements de ventes avec les résultats des élections. »
 「当社の売り上げランキングでは、フィクション、ノン・フィクションを問わず、ファシズム、フェミニズム、ディストピア世界、右翼・左翼政治を扱う書籍が大統領選挙の結果が出るにつれてウナギ上りに上昇しました」 
 この現象は2016年にトランプが当選した時にも生じたこと、また彼の夫人Melania Trumpの 回想録や副大統領J.D.Vanceの著書の売り上げも増えていることに触れながら、記事はディストピア小説のベストセラーとして、カナダのMargaret AtwoodのLa servante écarlate 『赤い衣の侍女』(1986年。原題The Handmade’s Tale 邦訳名『侍女の物語』)をあげた。
 Ce livre, adapté en film et en série, est l’un des grands classiques du genre. Il met en scène une société dans laquelle les femmes sont réprimées par le régime dictatorial en place.La majorité d’entre elles sont stériles, mais celles qui peuvent encore enfanter, les Servantes, sont réduites au rang d’esclaves sexuelles.
 「この本は、映画やテレビのシリーズものにもなったが、この種の大クラシックの一つである。独裁体制の下で女性たちが抑圧される社会が舞台だ。女性たちは大多数は子が産めないが、まだ子が産める女性たち、すなわち<侍女>は性的奴隷の境遇を余儀なくされている」
 発表当時は近未来にあたる21世紀の話という設定だが、キリスト教原理主義者たちがクーデターを起こして独裁体制を築いたこと、出生率低下に危機感を抱いて女性たちを抑圧した上、妊娠能力の高い女性たちだけを優遇してエリート層の男性の<侍女>に仕立てたことから、批判を浴びた。しかし、いざトランプ再選が決まってみると、今後の世界を予感させるにふさわしいと考える読者が出てきても、不思議はないように思われる。
 記事はさらに、George Owell の1984『1984年』(1949年)やRay BradberyのFahrenheit 451『華氏451度』(1953年)のような旧作の人気が高まっている、と駄目をおす。
 これら2作の暗鬱な読後感を想起するにつけ、勝利に酔うトランプの笑顔を見るにつけ、夏空に生まれた入道雲のように、不安が静かに急速に沸き起こることを感じる。はたして、どんな未来が待っているのか。

追記  200回を超える既往のコラムの一部を選んで、紙媒体の冊子を作りました。題して「ア・プロポ――ふらんす語教師のクロニクル」。Amazon, 楽天ブックス三省堂書店(WEB)などオンラインショップで販売中です。
 
 
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