朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
日本の向かう先は? 2008.10エッセイ・リストbacknext
 1年前、自民党parti libéral-démocrateの総裁が福田氏に決まった時、フランスの一部の新聞が誤って麻生氏の顔写真を載せたことがあった。不注意にしても度がすぎる。フランス国内の政治家の場合であればCanard enchaîné(風刺で名高い)紙の格好の攻撃材料だと思ったものだが、それがあながち間違いではなかったことが今や実証された感じだ。それにしても、このあわただしい交代の連鎖はあまりに無様だ。国際的に冷たい評価を受けるだろうということは予想していたが、Le Monde紙の扱いには驚くと同時に、日本の行方がつくづく心配になった。
 その記事は9月4日(木)付の経済・金融Economie & Finances面に載った。 福田氏の辞任発表は1日夜のことだったから、時間のズレが気になるが、それ以上に衝撃的なのは、政治面ではなく、それも1面から遠い18ページの経済記事の扱いになったことだ。日本の首相の交代など、国際的にはもはや政治ニュースの価値はないということなのだろう。福田氏の同業者たちはこの事実をどう受け止めるのか。彼らは何かというと、アメリカにつぐ世界第2位の経済大国という看板を自分たちの手柄であるかのように持ち出すが、その一方で、世界政治の中でのランクがガタ落ちの現状をきちんと把握しているのだろうか。
 

Le Monde紙の記事の見出し
後継の麻生首相の祖父は吉田茂氏であると取りざたされるが、そこで思い起こすのは、この外交官出身の政治家が日本の新聞を信用せず、海外の新聞を愛読していたということ。インターネット時代の今、この姿勢を見習えというつもりはないが、孫の世代が逆に国内のマスコミばかりに囚われすぎ、振りまわされているのが気にかかる。
 さて問題の記事はLe Japon en route vers la ruine? 「日本は破産(亡国)に向かいつつあるのか?」と題されている。
 筆者Martin Hutchinsonがあげる根拠は何か?
 第1は世界最高水準の財政赤字。
 une dette publique qui atteint 182 % du produit intérieur brut(PIB)<...>le niveau de dette publique le plus élevé du monde
 「国内総生産の182パーセントに達する財政赤字... 世界最高水準の財政赤字」
 第2は景気の後退。
Le manque à gagner en matière de recettes fiscales menaçait déjà les objectifs de M.Fukuda pour contenir le déficit budgétaire, lorsque le 13 août, on a appris que le PIB du Japon s’était contracté de 0,6 % au deuxième trimestre.
 「税収の損失がそもそも福田氏の予算赤字抑制目標の達成を脅かしていた矢先、8月13日になって日本の国内総生産が第2四半期に0.6パーセント減少したことがわかった」
 第3は、後継首相が財政再建に消極的なこと。
M.Aso...est un partisan de la dépense et pourrait abandonner l’objectif d’équilibre budgétaire de 2011
 「麻生氏は財政支出増大に賛成で、2011年度収支均衡回復という目標を捨てかねない」
 つまるところ、この記事の結論は実に悲観的だ。
 ...cette politique ne causerait pas seulement des dommages économiques, elle pourrait aussi provoquer une baisse de la notation du Japon.
 「この政策は経済的損失を招くばかりか、(世界における)日本の評価下落をひきおこしかねない」
 ここまで読んでくると、タイトルに出てきたruineには二つの意味、つまり国家破産と国家滅亡とが込められていたことに気づく。
 なんともさびしい話だが、ここでその暗さを払いのけるために、二つの話題を提供してこの稿を閉じようと思う。
 一つはこの記事にcoquille(英misprint)「誤植」が見つかること。問題箇所を引用するので、訂正してみませんか?(正解は最後に記す)Le Mondeでさえ間違えるのだと考えて肩の力を抜くか、それともこの一流新聞も堕落したものよ、と嘆くか。
 En 1998 ces mesures avait même représenté 10 % du PIB.<...> Elles débouchères aussi sur une énorme dette publique et une hausse du niveau des dépenses de l’Etat, passées de 31,5 % de PIB en 1991 à 38,1 % en 2002.
 「1998年にこれらの措置(景気対策)は国民総生産の10パーセントにまで達した。(中略)それがまたしても巨額の財政赤字ならびに、国内総生産の31.5パーセント(1991年)から同38.1パーセント(2002年)予算支出水準の上昇という結果に行き着いた」
 

Barbet Schroeder監督
もう一つは、同紙9月3日付文化面Culture & Vousの映画欄では日本が話題の中心にあること。そこでは江戸川乱歩作の『陰獣』Inju, la bête dans l’ombreがBarbet Schroeder監督の手でこのほど映画化されたことが大きな写真入りで報じられ、かなり突っ込んだ内容紹介がなされている。乱歩作品は日本では何度も映画化されているが、外国人監督の手にかかるのは初めてのことらしい。原作者の紹介もあって、編集部の力のこめ方は並大抵ではなく、上記の政権交代報道とはまことに対照的だ。同じページには宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』Ponyo, sur la falaise, près de la mer も紹介されていて、この部分を読んでいるかぎり、うつむき加減だった気分が晴れ晴れする。麻生首相は国連総会で日本は経済で世界に貢献すると力説したそうだが、経済ではなく文化の面で、の間違いではなかったのか。
 
 正解 :2か所で、動詞が主語の数に一致していない。
 ...ces mesures avaient même représenté / Elles débouchèrent aussi sur ...
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