朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
世界レストランランキング 2016.03エッセイ・リストbacknext

Atout Franceの ロゴ ※画像をクリックで拡大
 globalisation「世界化」という語には飽きあきするが、あらためてLe Petit Larousse を見ると、「経済用語」として、Tendance des entreprises multinationales à concevoir des strategies à l’échelle planétaire, conduisant à la mise en place d’un marché mondial unifié「多国籍企業が、地球規模で戦略を立て、世界市場の一本化の実現をめざす傾向」と説明されている。手近な例でいえば、錦織選手の活躍とともに日本に知れわたったATP(Association of Tennis Professionals男子プロテニス協会)の世界ランキングがそれだ。たしかに、テニスという業界では見事に世界が一本化され、ランキングがすべてであり、選手も興行者も観客もTVを筆頭にマスメディアもそれに操作されっぱなしではないか。
 Atout France(Agence de développement touristique de la France)「フランス観光開発機構」は観光産業の発展をめざして2009年に新設された。atoutには「切り札、奥の手」の意味があるが、この「アトゥー・フランス」がATPランキングのヒットに目をつけたのも無理はない。みずから先頭にたって、料理界に世界ランキングを持ちこもうと考えた。表向きは慎重にhiérarchiser les cultures gastronomiques「もろもろの美食文化を序列化すること」やjuger en son nom de la qualité des restaurants「各レストランの価値を評定すること」は目的ではないと断りつつも、modestement「謙虚に」compiler les évaluations de tous les guides et avis en ligne existants pour distinguer 1000 établissements d’exception à travers le monde「現存するすべての案内書、ネット情報の評価を集成して世界中から特級レストラン1000軒を抜き出すこと」を目指し、その結果をLA LISTE「世界レストランランキング」として昨年12月17日に公表した。
 2015年度のpalamarès「入賞者リスト」に先立って「アトゥー・フランス」が示した傾向分析から2項を引く。
 ・Les pays les mieux représentés parmi les 1000 sont le Japon et la France avec plus de 100 adresses, suivis par les Etats-Unis. La Chine, l’Espagne, l’Allemagne et l’Italie arrivent ensuite, avec un peu plus de 50 adresses chacun.
 「1000軒の中で選出数が最も多かったのは日本フランスで100店以上、それに次いだのは米国。中国、スペイン、ドイツ、イタリアがその後につづき、それぞれ50店をやや越えている」
 ・Le haut du classement est dominé par trois grandes cultures gastronomiques : France, Japon, Chine. Le Casual dining à l’américaine est en revanche plébiscité dans les tranches suivantes, de même que la cuisine italienne.
 「番付の上位は三大美食文化国、フランス・日本・中国が占めた。これにひきかえ米国流のカジュアル・ダイニングはイタリア料理と同様に、次のランクでは人気が高い。」
 八方美人を装いつつ結局はフランスを売り込むことになっているのは当然といえば当然だが、わたしたち日本人にしてみれば日本料理の世界化を強力にサポートしてくれたわけで、悪い気はしない。
 その日本からはトップ10に「京味」(3位)と「銀座久兵衛」(7位)が入ったが、今回取り上げたいのはそのことではない。そうではなくて、首位に立ったのはスイス、Lausanne近郊の小さな町Crissier所在のRestaurant de l’Hôtel de Villeであり、しかもその店のフランス人chef、Benoît Violierが公表後間もない1月末に自殺してしまったことである。  2月15日付けのLe Mondeは « Le chef s’est tué »「シェフ自殺」という大見出しの記事を掲げ、リードにこう記した。

Benoit Violier
Par Schnäggli Travail personnel CC BY-SA 4.0 ※画像をクリックで拡大
 Son restaurant en Suisse venait d’être sacré Meilleur Restaurant du monde, sa brigade de gagner douze concours en 2015 , Benoît Violier, trois étoiles au Michelin, a pourtant mis fin à ses jours, à 44 ans, au sommet de son art.
 「スイスにある店は先ごろ世界一のレストランと称えられたばかり、配下の調理チームは2015年のうちに12回コンクールで優勝したばかり。ミシュランの三ツ星シェフ、ブノワ・ヴィオリエはそれなのに44歳で、料理術の絶頂にあって自らの命を絶ってしまった」  いったい何があったのか。記者は前例を引き合いに出す。
 Dans ces milieux exigeants, où les réputations peuvent se faire et se défaire sur un classement, personne n’a oublié le suicide de Bernard Loiseau, le 24 février 2003, après la rétrogradation de la note de son restaurant de Saulieu, en Côte-d’Or, de 19/20 à 17/20 dans le guide Gault & Millau, suivie de la publication d’une critique lui annonçant la perte prochaine de sa troisième étoile au Michelin.
 「格付け一つで評判が上がったり下がったりするこの厳しい業界内では、2003年2月24日のベルナール・ロワゾーの自殺を忘れる者はいない。コート・ドール県ソーリューの彼の店の評価がゴー・エ・ミヨー案内で19/20から17/20に格下げされ、さらにミシュランでも三ツ星からの脱落を予告する批判が公表された後、自殺してしまった。」
 自室で猟銃自殺を遂げたという意味ではヴィオリエはロワゾーと同じ道をたどったことになるが、記者は彼の場合、動機になるようなsanction「制裁」は見当たらぬばかりか、上記のように評価はあがる一方だったことを強調する。その上でつけくわえる。
 En apprenant sa mort, le Suisse Gérard Rabaey, lui-même auréolé de trois étoiles, a reconnu sans fard : « S’il existait une quatrième étoile au Michelin, Benoît l’aurait eue... »
 「スイス人ジェラール・ラバエはこれまた三ツ星を持つシェフだが、ヴィオリエの訃報に接すると、お世辞ぬきに認めた<ミシュランに四つ目の星があったなら、ブノワはきっともらっていただろうに>」
 記事はつぎの挿話で終わっている。世界ランキングのトップという知らせを受けて2、3週間後のこと、ヴィオリエは親友に笑いながら問いかけたという。
 Comment vais-je faire maintenant, puisque je ne peux pas aller plus haut ?
 「ぼくはこれからどうしよう、これより上には行けないんだからね」

 
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