朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
すでに終わったが・・・
2006.3エッセイ・リストbacknext

Antoine DENERIAZ
  トリノ五輪JO Turin(英語でもフランス語でも、発音こそそれぞれの流儀にしたがっているが、都市名の表記はTurinであってTorinoではない)が終わった。残念ながら日本が総じて不振で、メダルはpatinage artistique, indivisuel dames の金1個にとどまったことは周知のとおり。フランスも開催地に近いわりには好調とはいえず、「ル・モンド」紙はドイツの「金色」に対し、en demi-teinte「くすんだ色」と評した。それでもメダルは合わせて9個。男子アルペンski alpinの滑降descente hommesのAntoine DENERIAZ、バイアスロン女子スプリントbiathlon 7,5km sprint damesのFlorence BARERET-ROBERT , 同男子12,5 km 追い抜きpoursuite hommesのVincent DESFRASNE、以上3個の金メダルのほか、特に日本で前評判の高かったフリースタイルski acrobatique の女子モーグルbosses damesでSandra LAOURAが上村愛子を抜いて銅メダルを獲得したことが注目される。
 さて終わったといえば、本シリーズのLe Petit Prince論も前回で終わったのだが、もう一回だけ例をひくことを許していただこう。記憶をよびさましてほしいのだが、忙しない転轍手とのやりとりで、あっという間に反対側から急行列車がやってくるのを見た王子が「もう帰ってきたの?」と尋ねる場面(22章)。原文は
---Ils reviennent déjà ? demanda le petit prince.
で、これに対する英訳は新旧ともに
“Are they coming back already? “ demanded the little prince.
 (いずれも太字は朝比奈。以下も同じ)
 ここから、なるほどdéjàイコールalreadyなんだなという固定観念が生まれやすい。ところが早のみ込みは禁物で、もう一つのdéjàの場合を見てみよう。
  Ça fait déjà un mois que nous parlons ensemble.
例の多忙をきわめる点灯夫が働く小さな星での話(14章)。1日が1分と聞いて笑い出す王子に相手が真顔で「こうやっていっしょに話しはじめてから、もう一ヶ月が経っているんだ」とこたえるところである。これに対する新英訳はつぎのようになっている。
 You and I have already been talking to each other for a month.
 alreadyにこだわったものの、原文の現在形を捨て、現在完了に改めたことが見逃せない。この工夫のヒントとなったのはさしあたり次の旧訳にちがいない。
 While we have been talking together a month has gone by.
 ここでdéjàに相当するのは、二つの現在完了の重なりであり、いまさらalreadyをもちだすまでもないと判断されたものと推察される。
 これに関連して、仏英・英仏辞典がJe te l'ai déjà dit. 「そのことなら前に言ったよ」に対し、つぎのように二つの英文を掲げている点が参考になる。
 I've already told you once. / I told you before.
 要するに、ここではdéjà = already の図式がくずれかけている、といってよかろう。
 「イタリアに行ったことがありますか」の場合も同類である。
 Avez-vous déjà été en Italie ? /Avez-vous déjà visité l'Italie ?
 Have you [ever] been to Italie ?
 さて、以上のわずかな差を認めた上で、déjàの用法を見渡したときに、alreadyとはすっかりずれてしまうことがある、その点に目をむけるとしよう。
  まず評価の基準に照らして、「それだけでもすでに」の意味で、強調する用法である。
 C'est déjà un joli salaire !
 That's a pretty good salary !
 「(君は低給だというが)それだけ貰ってれば、もう大した給料じゃないか」
 オリンピックの話題にもどるが、妙に4位が多かった。そこで中継放送の際、解説者やアナウンサーからしばしば発せられたコトバが「4位だって、それだけでも大変なことですよ」だった。
これをフランス語にすればどうなるか。
 Être quatrième, c'est déjà très bien.
 Even come to fourth is pretty good.
 ついでにいうと、4位に泣いた点はフランスも同様で、アイスダンスpatinage artistique, dance、スノーボードsnowboard hommesのパラレル大回転slalom géant parallèleなど5競技を数えたから、こんなコトバがあの国でも飛び交ったかもしれない。


est son bureau, déjà?

  上の用法にもまして日常会話でよく使われるのは、疑問文のあとに添えて、忘れていたことを今一度くり返し説明してもらう場合のdéjàである。
 C'est combien, déjà ?
 How much was it again ?
 「これって、いくらだったけ?」
 Il s'appelle comment, déjà ?
 What's his name, again ?
 「彼、何という人だっけ?」  
 オリンピックが終わっても、こういうdéjàの必要性は消えるどころではない。
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