朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
大統領選の落ち穂拾い 2012.5エッセイ・リストbacknext

エリゼ宮
 エリゼ宮palais de l'Elyséeの新しい主がきまった。選挙がすんだところで、あらためて選挙前に戻って、そこから二、三の話題を拾っておくことにする。
 Chirac氏というと今では過去の人、認知症を取沙汰されるくらい老衰ぶりが目立つが、2007年Sarcozy氏に交代するまでは2期12年にわたって大統領を勤めた大物である。その彼が10年前、Johannesburgでの地球サミットの際に発した名句がある。
 Notre maison brûle et nous regardons ailleurs.
 「我が家が火事なのに、わたしたちはよそ見をしている」
  4月9日付Le Monde紙の社説はこの文句をもじって、つぎの表題を掲げた。
 La planète brûle, et ils regardent ailleurs.
 「地球が火事なのに、彼らはよそ見をしている」
 ここでいう「彼ら」とは、大統領選の候補者candidats à l'élection présidentielleを指す。さらに社説は、「よそ見」の意味を明かすため、環境問題、特に4大項目「気候変動、生物多様性、水、公害の健康への影響」changement climatique,biodiversité,eau,effets de la pollution sur la santéに関する、経済協力開発機構Organisation de coopération et de développement économiques(OCDE,[英]OECD)の警告を紹介する。
 ..il est nécessaire et urgent d'engager dès à présent une action globale, de manière à éviter les coûts et conséquences considérables de l'inaction, tant du point de vue économique que sur le plan humain.
  「手をこまねいていれば経済的にも全人類にとっても重大な出費や結果をもたらす、それを避けるような方法で、早速、全地球的な行動をはじめることが喫緊の必要事である」
 ところが、候補者たちはこれほど深刻な環境問題をそっちのけにして、国内の失業率や不況の小手先の対策に躍起になるというcécité「盲目」状態にある、悪くいえばoccultation confondante「選挙民をあざむく隠蔽」を企んでいる、というのだ。
 この事態を憂えた当紙は、候補者8人に対し環境問題に関するアンケートを試み、その結果をおなじく9日(第一回投票le premier tourの2週間前)に発表した。以下に10問のうち2問を抜き出してみる。因みに、回答は3種、✔Oui(日本なら◯とするだろう)、✕Non、?Ne se prononce pas「どちらともいえない」だ。
1問目は原発に関するもの。候補者への質問だから、動詞が単純未来形になっている。
 Organiserez-vous un référendum sur le nucléaire ?
 「原子力[利用]について国民投票を実施しますか?」
 念のためにいうが、4月5日にパンリ原発la centrale nucléaire de Penly(セーヌ・マリチーム県)で小事故があり、福島の後だけにフランス全土に不安がひろがったことを想起しよう。その意味で選挙民にとっていちばん興味をそそられる質問だったと思われる。ところが、Jean-Luc Mélenchon(左翼戦線)とNicolas Dupont-Aignan(立て!共和国)の2名以外は全員「✕」。そのため、残念ながら、有力2候補の対立項目にはならなかった。ただし、同紙の解説では、Sarcozy氏がエネルギー自活の観点から原発擁護の立場であるのに対し、Hollande氏は2025年を目途に電力を原発に依存する割合を75~50%がた削減するとしているから、同じ✕でも、そこにはニュアンスの違いがあるようだ。
 もう一つはOGMに関する質問。O.G.M.とはorganisme génétiquement modifié;[英] genetically modified organism「遺伝子組み換え作物」で、アメリカで盛んな疑似農業だ。
 Maintiendrez-vous l’interdiction de la culture des OGM en France ?
 「フランスにおける遺伝子組み換え作物栽培の禁止を維持しますか?」
 伝統的にフランス国民の間には警戒心が強い。それを意識してか、1名を除く全候補が「✔」、Sarcozy氏だけは「 ?」の回答。これを評してLe Monde紙は、Monsanto(ミズーリ州に本拠を置くOGMの巨大企業)のmaïs transgénique「遺伝子組み換えトウモロコシ」の輸入を禁止したのは当のSarcozy大統領なのだから矛盾しているというのだが、氏自身はprocéder au cas par cas à une analyse des bénéfices et des risques pour chaque OGM「遺伝子組み換え作物一つ一つについて利害を分析し、ケース・バイ・ケースで決める」立場だと反論する。任期切れ大統領Président sortantならではの粘り腰か?
 さて選挙戦だが、Le Monde紙(4月18日付)は若者の投票行動に変化が生じつつあることに注目する。支持票集めに奔走するmilitants「運動員」が行く先々の若者たちから受けた冷やかな反応を総合して、次の記事にまとめた。
 On se voit pas dans Hollande ni dans Sarko, ni dans personne.
 「乗る気がしないんだよ、オランドにも、サルコにも、どの候補にも」
 この政治離れの空気が第一回投票の棄権の多さとなって表に出たのかもしれない。同紙(4月24日付)によると、今回の棄権率は19.59%。この数字をどう見るか?そもそも日本ではやけに棄権が多い。1996年以降最高といわれた前回の衆議院選挙の投票率でさえ、小選挙区・比例あわせて69.3%弱、7割に届かなかった。これに比すれば、フランスの数字は立派なものだ。それなのに同紙が懸念するのは、海外県・海外領土の低調さだ。Saint-Bartélemy(グアドループ)63.51%、Guyane54.92%、Mayotte51.13%など棄権者が半数を超えている。これに対し、本土métropoleは好調で、棄権率最高のSeine-Saint-Denisでも26.54%だ。しかし、そのぶん両方の格差がひろがったことに同紙は警告を発する。

棄権防止ポスター
 いずれにせよ、投票結果の分析は今後さまざまな形で出てくるだろうから、後日に譲る。今回の締めくくりには、上記の若者の政治離れに触れた記事にイラストとして掲載されたポスター(Strasbourgの市議会・青年会議制作)の標語をあげるだけにする。
 AU LIEU DE GEEKER, VA VOTER!
 「ジーカーなどしてないで、投票に行け」
 因みに、geekerとは元来はアメリカのCBSが制作したアニメに出てくるロボットだが、これが活躍するテレビゲームが今や大人気らしい。Google検索で、この棄権防止ポスターのビデオ版が見られる。選挙後も、仏語の聞き取りには格好の材料だろう。
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