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第11回 ぼくたちだって恋をする! |
2010.04エッセイ・リスト|back|next |
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「聞いたよ、ケイはエマと結婚の誓いを立てたってね」
パン屋さんの店内で顔をあわせたのは顔見知りの、ケイの同級生のお父さんでした。
「結婚の誓い?」
私はバゲットを買ったお釣りを財布にしまいこんでいる最中で、トマは続けて、
「給食の時間にみんなの前で誓ったとか、キスまでしたって? 娘がそう話してくれたよ」 ニヤニヤ笑っています。
ケイったら・・・。 私は家へ帰ると、部屋で漫画を読んでいる当本人に、
「ねぇ、エマと結婚の約束をしたんですってね」
私の言葉にびっくりして顔をあげて、
「どうして知ってるの?!」
「ふふん、パン屋さんでね、ダニエラのパパが教えてくれたのよ」
「だってエマがぼくのこと好きでさ、みんながはやし立てるもんだから」
ふーん、じゃあ宿題をしたらと、カバンのなかを開けてみると、ピンク色の船のかたちをした折り紙が底に入っていました。「これは?」
「あ、それはとなりの席のローズがくれたんだ」
もうすぐ8歳になるケイたち、なんだかクラスは華やいでいるようです。 |
放課後の公園にて。
長い冬からやっと開放された植物とこどもたち、一緒になって春を謳歌しています。枝にびっしりと黄色い花をつけているのは Forsythia 、和名はレンギョウ、パリのミモザとも呼ばれています。ベンチで読書する私の横に、小さな妖精がそろりとやってきて座りました。ジャンヌでした。去年までは顔に丸みが残ったあどけない顔をしていたのに、背が伸びて急に大人っぽくなったようです。乱れた栗色の巻き毛が顔にかかっていて、その中からきらりと光る大きな瞳がじっと私に注がれています。女の子を相手にするのには慣れていないのでドキドキしながらも、つとめて平静に、
「元気?」
すると以前のままの屈託のない笑顔で「うん!」と答えると、
「ねぇ知ってる? ローラはポール・エミールのことが好きなのよ」
「あ、メガネの男の子ね? で、あなたは誰が好きなの・・・?」
こんな会話は初めてだなと思いつつ、慎重な態度で受け答えすると、
「フランシスコ」
と返ってきました。「だってすごく優しいから。汚い言葉はつかわないし」
なるほど。と次の会話を待つ間もなく、かろやかな足取りで恋する妖精は飛んでいってしまいました。
「ここ、座っていい?」
と次にやってきたのはエレナのお母さん、エレナもケイと同級です。ひととおりの挨拶を交わしたあと、彼女は公園を駆けまわるこどもたちを見まわして、
「ほんとにみんな大きくなったわね、びっくりするわね」
「ええ、それにね、みんなamoureux(恋している)みたいよ」
さっきのジャンヌとの会話と、ケイの結婚の誓いとやらを話すと、彼女も苦笑しつつ、
「うちもそうよ、エレナったらある日、学校から指輪を持って帰ってきたの、『アントナンからもらった』って。見たら本物の石がついた指輪で、どうみても大人用の指輪だったから翌日先生のところへ持っていったのよ、アントナンのお母さんの指輪だと思って」
「すごいね、指輪? そんなことまでしちゃうなんて!」
「でも続きがあるのよ、先生曰く、もっとすごい指輪をあげちゃった子がいたの、知ってる? xxxっていう女優さん、彼女の息子が小学校に通っていたときも、おなじように好きな女の子に指輪をあげたんですって。でもそれがどう見てもダイアモンドの指輪でね、もらった女の子のお母さんは急いで先生のところへ返しに行って、先生もその女優さんにすぐ連絡したんだけど・・・なんと彼女、指輪が無くなったことさえ気づいてなかったんですって! いったいどれだけの高価な指輪が家のなかにころがっているのかしらって、先生が笑いながらおっしゃってたわ」
うーん、フランスを代表する美人女優だからなぁ・・・ありえる話だなあ。私は、彼女の金銀財宝で散らかった部屋を想像してみたのでした。
数日後、
「エマとはどうなってるの?」宿題を始める前にからかいまじりに言うと、
「エマはシモンに夢中なんだ」
「え、もうおしまいなの?」
「J’en sais rien!(知らないよ!) 彼女が勝手にぼくのこと好きになって、勝手にまたシモンのことを好きになっただけだもん」
そのJ’en sais rienという言い方と、両肩をすくめるしぐさが、まさにフランス男性がお手上げ、という時にするそのままだったので、ケイには悪いけど大笑いしてしまった私だったのでした。
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レンギョウ、鮮やかな黄色が曇りがちなパリの空に映えます。
真剣に遊び、真剣に恋をする!
今年も復活祭のために飾り玉子を作りました。 チョコレートのニワトリは「アオキサダハル」さんの。抹茶入りだから緑色のニワトリ!
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