朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
憲法の改正 2013.5エッセイ・リストbacknext

ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」
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 このところ日本では憲法の改正la révision de la Constitutionに執着する人物が政権を握り、改正ムードを高めようと懸命になっている。あくまでも国民が決める問題だが、気になるのは、改正の発議の手続きを定めた96条を改正しようという論議が先行していることだ。国会議員の3分の2以上の賛成というハードルは実は明治憲法73条の考え方を踏襲したもので、特別に高いわけではない。それだけに、これを引き下げようという動きにはつよい不安をおぼえる。この機会に憲法をのぞいてみる気になった。むろん、この場がフランス語教室であることを忘れたわけではない。とりあえず、フランスと日本の憲法を比較した結果、素人目で気づいたことを記したい。
 第一に目につくのは、制定当時の両国の政治情勢がそれぞれの憲法にはっきり標を残したということ。フランスの場合、国内に政情不安があり、首相の交代があいついだばかりか、植民地の仏印・Maroc・Tunisieの独立、アルジェリア戦争guerre d’Algérieの勃発という国難にあえいでいた。そのため、強力な行政府の登場が待たれていた。1958年10月4日付の第5共和政憲法Constitution instituant la Ve Républiqueの第2章は大統領の権限を強化する工夫に満ちている。(以下、条文の和訳は稲本洋之助氏による)
 Article 5 Le Président de la République veille au respect de la Constitution. Il assure, par son arbitrage, le fonctionnement régulier des pouvoirs publics ainsi que la continuité de l’Etat.
「共和国大統領は、憲法典の尊重を監視する。共和国大統領は、その裁定によって、公権力の正常な運営ならびに国家の継続を確保する。」
 この大統領は国民による直接普通選挙suffrage universel directで選ばれる。
 その権限はつぎのように規定されている。
 Article 9 Le Président de la République préside le Conseil des ministres.
 「共和国大統領は、閣議を主宰する。」
 内閣総理大臣が主宰していた第4共和政との違いがはっきり出ている。
 大統領は軍の長chef des arméesである(第15条)ばかりでなく、つぎのような緊急措置権をも与えられている。
 Article 16 Lorsque les institutions de la République, l’indépendance de la Nation, l’intégrité de son territoire ou l’exécution de ses engagements internationaux sont menacés d’une manière grave et immédiate et que le fonctionnement régulier des pouvoirs publics constitutionnels est interrompu, le Président de la République prend les mesures exigées par ces circonstances, après consultation officielle du Premier ministre, des présidents des assemblées ainsi que du Conseil constitutionnel.
 「共和国の制度、国家の独立、その領土の一体性またはその国際的取決めの履行が重大かつ直接に脅かされ、かつ、憲法上の公権力の正常な運営が中断されるときは、共和国大統領は、総理大臣、[両]議院の議長ならびに憲法院への公式の諮問の後、それらの事態が必要とする措置を定める。」
 他方、1946年11月3日付の日本国憲法は、天皇の名のもとに始められた戦争を二度と繰りかえしてはならぬとする決意に立っていた。そのため第1章は「天皇」と題され、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であり」(第1条)にはじまり、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」(第4条)という条文に明らかなように、「統治権ヲ総攬シ」(大日本帝国憲法第四条)「陸海軍ヲ統帥スル」(同第一一条)、従前の天皇の権能をできるかぎり限定することに力点がおかれている。だから「外国の大使及び公使を接受すること」(第7条)を含めた「国事行為」を行う(その意味ではフランスの大統領と同じ国家元首の地位にある)けれども、その前提条件として「内閣の助言と承認」が必要であり、「内閣が、その責任を負ふ」(第3条)のである。こうして、「天皇」の地位を名目的なものにとどめた後、第9条の「戦争の放棄」が宣言されていることに注目しなくてはならない。いってみれば両者はセットになっている。「神聖ニシテ侵スベカラズ」という天皇像とともに、忌まわしい戦争も放棄されたのだ。(新憲法の条文も旧仮名遣いであることに注意!)
 もう一つ、フランス憲法の第2条(1995年8月4日に修正された)に注目しよう。
 La langue de la République est le français.
 L’emblème national est le drapeau tricolore, bleu, blanc, rouge.
 L’hymne national est La Marseillaise.
 La devise de la République est « Liberté, Egalité, Fraternité. »
 「共和国の言語は、フランス語である。
 国旗は、青、白、赤の三色旗である。
 国歌は、「ラ・マルセイエーズ」である。
 共和国の標語は、「自由、平等、友愛」である。」
 なんと、当たり前のことが憲法に列記されているではないか!しかし、考えてみれば、これは「フランス人」の定義である。つまり、定義が必要になったということだ。


日本の「少子化」
資料:「国勢調査」による人口及び「人口推計」による人口
注)平成18年から22年までは4月1日現在、その他は10月1日現在
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 これを日本にひきつけて、日本国憲法に「日本語」「日の丸」「君が代」を盛り込むなど、今のわたしたちには思いもよらない。けれど、過去はともかく、世界化が急速に進んでいる現状を思えば、日本列島に住んでいるのは皆日本人で、当然のごとく日本語を話し、儀式では君が代を歌うものだ、そういって済む時代がこのさきもずっとつづくはずがあるまい。わたしたちだって「日本人」の定義を考えてもよくはないか。
 このほど日本の総務省統計局が公表した資料によると、日本の少子化はとどまる所を知らぬ感じだ。平成22(2010)年4月1日現在における子どもの数(15歳未満の人口)は、前年にくらべ19万人すくなくて1694万人。全人口に占める子どもの割合は昭和50(1975)年以来36年連続して低下し、13.3%、史上最低まで落ちこんだ由。
 何も日本を軍事大国にするだけが、日本を守る手段ではない。それに心すべきだろう。
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