パリの日本料理屋さんで、知人のマダムCと食事をした時のこと。テーブルの上には銘銘の前にランチョンマットのごとく黒塗りの四角いお盆がある。「乾杯」とグラスを手にした時、突き出しの皿が饗された。お盆の上、箸の向こう側に置かれた、5センチ幅20センチ長くらいの細長い陶器の皿の上には酒肴が3品、小さくきれいに盛られていた。
「あー、すごく不思議。私の感覚だとこのお皿をこういうふうに置くんだけど」と、突然マダムCは皿を、数字の「1」のように縦にした。
とっても奇妙だった。なんだか「すわり」が悪い。あまりに理屈っぽく自己主張している感じ。やはり皿は流れるように横に置かれるべきだ・・・なんて、瞬時に私の感覚が反発した。
知日派の彼女である。日本料理も大好きだし、箸も上手に使いこなす彼女ではあるが、そのことばに、西洋と東洋との感覚の違いをまざまざと感じ、私にはまた一つ、目からうろこ!であった。
そういえば、我が家のポルトガル人のお手伝いさんも、私がわざわざ「ずらして」並べる室内装飾用の木の板を「きちん」と揃えてしまう。どうやら、彼女の感覚では、そんなお行儀の悪いこと・・・というところらしいのだ。
こういった感覚の延長かどうかは分からないが、フランス人はとにかく「対称」が大好きだ。フランス庭園を見れば一目瞭然、中央の噴水から左右対称に整然と樹木を植えていく。ヴェルサイユしかり、ヴォ・ル・ビコントしかり。
庭園とまでいかずとも、市内のあちこちの緑のスペースを見ていれば、それがかなりの法則性を持っていること、特に「同じように揃える」ということに情熱を燃やしているのがよくわかる。植物の背の高さ、花の色などが、きちんと計算されているのである。そして、景観に対するそのこだわりが、私は決して嫌いではない。
コンコルド広場は、ヌイイーに住む私がリーヴゴーッシュ(セーヌ川左岸)に車で行く時にいつも通るなじみの広場である。しばしば渋滞する所だから運転する身にはうれしくないのだけど、オベリスクの周囲をのろのろ走らせながら見るマドレーヌ寺院は、私のお気に入りの一つである。ロワイヤル通りをはさんで右に海軍参謀本部、左にオートモービルクラブとオテル・クリヨンの入るルイ15世様式の建物が対をなしているのはもちろん美しいが、その奥に見える寺院正面の列柱までの距離が何とも言いがたく魅力的だ。寺院の前の階段から直接見上げるのとは、絶対違う!!今でも時折葬儀に使われるこの教会の、厳かで慎み深い雰囲気を感じるからだろうか・・・。
1764年に建築が始まったこの建物(当初、使用目的が、議会、図書館、銀行など二転三転し、工事がしばしば中断した)を軍人のための神殿〈パンテオン〉と決定して、建築を続行、完成させた(1806年)のがナポレオン(もっとも、その後〈パンテオン〉は現在のパンテオンの建物に移ったため、ここはいわゆる教会となった)。ルイ14世と愛妾モンテスパン夫人との間に生まれたブルボン男爵夫人が、1722年にセーヌの左岸に建てさせた小さな宮殿〈パレ・ブルボン〉は革命後没収されて議場となったが(現在では国民議会〈下院〉として使われている)、その建物の正面玄関を、セーヌをはさんでコンコルド広場のはるか先、マドレーヌ寺院の正面にきちんと向き合うように作り変えさせた(1807年)のもまたナポレオンである。
どうやら彼も「対称」の魅力に取り付かれた男だったらしい。