パリ大好き人間の独り言、きたはらちづこがこの街への想いを語ります。



セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
第47回  そこ(その2) 2008.8エッセイ・リストbacknext
 行きたいけれどなかなか行かれない所、がある。
 「別にいまさら」とか「きっとそのうち」とか・・・・いろいろ理由はあるのだが、ホントは、そこのことを誰かに言ったら笑われそうだし、大体、忙しい合間にちょこっと行ってみる、というわけにはいかない‘特別な’場所だからである。
 でも、そこに近づくことはしばしばあるので、私はいつもいつも、「今度こそ」と思い、何年もの月日が流れてしまった。

 「そこ」にはなかなか行かないけれど、そこの代わりによく行く所がある。
  それは、なんの変哲もない、パリの道路の一つだが、動物好きの私にとっては、とても意味のある場所。セーヌ河畔の右岸、ケ・ド・ラ・メジスリという名前の200メートルほどの道である。
 セーヌにかかるポン・ヌッフ(‘新しい橋’という名の一番古い橋)の、昔、サマリテーヌというデパートがあったあたりから、川の流れに逆らって、市庁舎に向かって歩いていく。このあたりの、川沿いの歩道(車道の右側)にはブキニスト(古本屋)が並ぶので、それをのぞきながら歩くのも楽しいが、車道の左側の歩道を歩くと、いつの間にか、ピーピーとかきゃっきゃっとか、人の声とは違う声が聞こえてくる。そして歩道が突然、緑で覆われてしまう。
 所狭しと植木鉢が並ぶ中を、人々がゆっくり立ち止まりながら、そして時には店の中に入ったりしながら散歩している。ここに来る人たちは、もちろん、商店での買い物が目的の人も多いだろうけれど、私のように、ひやかしの客も多いはずだ。特に小動物を扱う店舗には、子供連れの家族とか若い人たちもたくさん訪れ、ケージや水槽を熱心に見つめている。ひやかしと言えば聞こえは悪いが、要するにどうしてもどうしても動物たちを「見たい」のである。多分。少なくとも私はそうだ。

 この道の存在を知ったのはいつのことだったのだろう。もう全く思い出せないけれど、かなり昔、おそらく動物好き同士の他愛ない話の中で誰かに教わったのだと思う。それは、日本ではペットと言えば犬か猫、せいぜい小鳥、という時代のことだったから、この通りに始めて足を運び、人間の赤ちゃんよりも大きな顔をした大きな身体の「ラパン・ジェアン」という文字通りの巨大兎を始めて見た時には、本当に、我が目を疑った。
 でも、それは人に飼われるためにいるまぎれもない‘兎ちゃん’であり、ここでまた私の中の「常識」はもろくも崩れ去った。小さくてピョンピョン跳ねるだけが兎じゃない!
 その後、耳の垂れた鼻ぺちゃ兎を見た時も――最近では日本でも珍しくないが――しかり。
 犬や猫や金魚だけでなく、ハムスター、兎、鶏、七面鳥、オウム、ネズミ・・・日本のペットショップとは比べ物にならないくらい充実した専門店が立ち並ぶここは、動植物が大好きな人にとっては、パリのファッションをリードするモンテーニュ街よりも魅力ある通りかもしれない。

 犬派?猫派?
・・・・・・いえ、私、兎派、です。

 昨今、日本でも「飼いやすい動物」としてにわかに兎が注目されているが、私が(正確には小学生の息子が)兎を家に連れてきてしまったのは、今からもう20年も前のことで、その頃は東京で兎を診れる獣医さんも殆どいなかった時代だ。そんな昔から彼らを家族の一員として受け入れ、つきあって来た私としては、やっぱり、どうしても、「そこ」に行かなければならない。

 長年の思いを成就させるべく、決心して、とうとう勇気を出して(!?)行ったのは、この6月のことだった。
 夕日もまだ高い午後7時すぎ、私はポルト・マイヨーの大きな広場の中ノ島に立った。パリの西北にある、幹線道路の集まる広場。ここは自動車のためのとても大きなロータリーで、中ノ島は一応公園のようにはなっているものの、単なる緑地帯にすぎない。ここに渡ったからといって、四方八方へ歩いて行かれるわけではないから、やって来る人もまばら。
 周囲を走る車から好奇の目で見られながら、私は足音を忍ばせて植え込みの外側の芝生の斜面へと回った。
 いる!いる! 夕日を浴びて一生懸命草を食むグレーの兎たち。この春に生まれたとおぼしきおチビさんたちは、警戒することも知らないのか、逃げるふうもない。
 君たちの祖先はどこから来たの?

その夜、私が大満足で眠りについたことは、言うまでもない。


ケ・ド・ラ・メジスリ






ポルト・マイヨーの兎

 
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