私はその瞬間の、彼の瞳を今も忘れることはできません。大きく爛々と見開いていて、私たち両親を凝視している、その中に、驚きと、喜びと、ほんの少しの畏れ、「あのひとが来てくれた・・・!」 それらが混じり合って星のようにちかっときらめき、私の目を射ったのです。でもそのきらめきはすぐに、嬉しさいっぱいの笑顔と、包装紙をやぶって念願のキックボードを見いだす行為に打ち消されましたが。でもあれ以来、あの時のケイの瞳の輝きを思い出すと、私の胸はぽっと、小さな炎が灯ったように熱くなります。これから先、何年たっても、あの瞳の輝きを忘れたくないなあと思うのです。
あれからまたたく間に1年、またクリスマスの季節が巡ってきました。Calendrier de l’avent(カランドリエ ド ラヴァン)も、もう半分以上、窓が開いています。これは、12月の1日からクリスマスの朝まで、1日ずつ窓が付いているカレンダーで、その窓を開けると、中に絵が描いてあったり、小さなお菓子が入っていたり、子どもたちはキリスト降誕の日までを、楽しみながら迎えるのです。学校に上がって数を習い始めたので、今年はしっかりケイの毎朝の日課です。クリスマスツリーも10日過ぎになってようやく、我が家にお目見えしました。6才の、北欧からやって来たもみの木です。ケイと同い年なのに2倍近くも背が高―い。包まれていた網がほどかれると、次々に枝が広がっていき、同時に清々しい森の香気が部屋中に放たれました。きれいに飾り付けられて、これから1ヶ月、家族と共に暮らすのです。
そしてもちろん、この時期の子どもたちの関心事といえば、ペール・ノエルからのプレゼント! 日本でサンタクロースと呼ばれる、白いお髭に赤い外套の優しいおじいさんは、この国では親しみを込めて「ペール・ノエル」と呼ばれます。秋が深まる頃から頻繁に、親子のあいだで話題に上がってきた人物です。最初のころケイは、「(ペール・ノエルへの) 手紙にはビー玉って書くよ、それも『ガロ』が欲しいんだ」「『ガロ』って?」「いちばんおっきいやつ、こんな」 と言って両手で直径5cmくらいの輪を作って見せました。いま小学校の校庭では、ビー玉で遊ぶのが流行っていて、コパンのシモンはそれは見事な『ガロ』を持ってるんだとか。「だからぼくもそれが欲しいんだ」なるほど。
それが最近、某デパートが配布しているクリスマス用のプレゼントのカタログを、ケイは後生大事に抱え、家のあちこちでページをめくってはそこに魅せられています。聞けば、親切なコパンが2冊持っていたのを、「この中から選ぶといいんだ」と言ってケイに1冊まわしてくれたとか。そして寝る前に読む本もそのカタログにすり替わってしまって、「お母さん、これ読んで」 と言います。「読むって何を読むの?」「だからぁ、この中のおもちゃの名前と説明を全部読んでほしいんだ」「・・・」
そんな、クリスマスが近づいた晩の、皆で囲んだ夕食の席でのことでした。ケイはこう切り出しました。
「わかったんだ、ぼく! Lutin (リュタン) ってほんとうは透明なんだよ!」
「リュタンって、あれか、ペール・ノエルと一緒に働いてる小人のことだな?」と、夫。
「そう、だから、見えないけど、ちゃんとみんなのことを見てるんだよ、それで、流れ星になってまたペール・ノエルのところに戻っていって、その子がいい子かどうか、報告するんだ、あっ、ぼく、注意しなくっちゃ!」
学校で習っている国語の教材で、小人が子どもたちと一緒に遊んだり、学んだりするくだりが出てくるのを私は思い出しました。そして最後にその小人は、他の子どもたちといた仲間と合流して、いろんな色の星になって、シュッと空へ飛び立ってしまうのです。そんなことから今のケイの発言は飛び出したのでしょう。
そんなことを一生懸命に話すケイを、兄のラファエルが見つめています。彼はケイより12才年上で、小さな弟の夢を、「そんなのうそだよ」と壊さない程度には大人だし、かといって「そうだなぁ」などと同調するのは気恥ずかしい、困ったようなまぶしいような、そんな表情をしていました。
私はといえば・・・、子どもの時のある晩を思い出していました。眠っていた枕元に、紙の包みが置かれた音で目を覚まし、とっさに「あっ、お母さんだ」と思ってしまったこと。でも目は開けないで寝ているふりをし続けていたら、そのままそっとその人物は遠ざかり、でも足音がしっかり母のものであったこと 。「やっぱり、サンタさんはいないんだな・・・」と一瞬にして憂鬱になりながらも、次の瞬間には母への愛情がむくむくと湧いてきて仕方なかったこと。翌朝になって母に、「プレゼントがあったよ」と言ったら、母がそれは嬉しそうな顔をしたので、ああこれで良かったと思ったこと・・・。
「ペール・ノエルのためにちゃんとお菓子と飲み物を置いておかないとね!」ケイは続けます。「飲み物は何がいいかな?」私が問うと、「ワイン!」「えー!酔っ払わないかなあ?」「大丈夫、好きだから」まるで見てきたことのように答えます。そして、「お菓子はチョコレートのがいいよ」・・・こんな風にして、今年の降誕月は過ぎていきます。
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