ケイのわんぱく物語
日仏ダブルの小学生ケイ君が送る、パリの子供たちの元気な日常。



セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
第6回  春のおとずれと復活祭 2009.05エッセイ・リストbacknext
 

 明日は4月1日という日の夕方、帰宅してカバンからおもむろに取り出されたのは、色とりどりに塗られた大きな紙の魚。
 「これ、明日お父さんの背中にくっつけるんだよ!」
 そうだ、明日は“Poisson d’avril? ポワソン・ダヴリル”英語圏では“エイプリル・フール”と呼ばれるこの日、フランスでは“四月の魚”となっています。それは、紙で作った魚を、本人に知られずに背中にくっつけて遊ぶのが慣わしですが、でもどうして魚なのでしょう? これには諸説あって、中世カトリックの信者たちは“Careme カレーム”と呼ばれるこの時期に、肉を絶つ食事を摂っていました。それは後にも述べる復活祭に向けての大切な期間だったのです。唯一、肉の代わりに食することができたのが、魚でした。そんな彼らをからかって始まったのか、はたまたこの期間は魚たちの産卵期なので、漁猟が禁止になっていたのと関係があったのか・・・、でもこんな風に春の最初の日、ちょっとしたイタズラを楽しむ風習は、古代ギリシアからすでに始まっていたそうです。

 春の行事で忘れてはならないのが復活祭でしょう。フランスでは“Paque(s) パック”と呼ばれます。最後にsがつくとキリスト教のお祭り、sをとるとユダヤ教のお祭りを意味するそうです。語源は“Passage パサージュ” モーゼによる出エジプトの折、紅海が開いてユダヤ人たちは海を通過(パサージュ)することができました。そこからこの祭りが始まったそうです。キリスト教では、イエス・キリストの磔刑後の復活を祝う祭りとなっていますね。
 去年はいつもの公園で、区が主催する卵探しがありました。今年はどうだろうと思っていると、国の重要文化財を管理する機関が、5才から12才の子どもを対象に、復活祭の日曜日に卵探しをする、という情報を得ました。そこで私たち家族はさっそく、パリ東部にあるヴァンセンヌの城へ向けて、朝早く出発したのです。
 「卵は全部、ボクが見つけるからね!」とやる気満々のケイ。この卵探しも、起源は中世にさかのぼり、復活祭の金曜日に産み落とされた、1番立派な鶏の卵を王様に献上していたのが、のちに卵の殻に色をつけるようになり、針で穴を開けて中身を出し、チョコレートを入れることも考えだされました。今では毎年、フランス中のショコラティエが競って、斬新な作りのチョコレート卵を店頭に飾ります。
 さて、お城に辿りつくと、城郭内を子どもたちが紙と鉛筆を持って走り回っています。受付に行くと、中世のお姫さまのような仮装をした女性が、
 「この紙に城内の地図と質問が書かれてあります。質問に全部答えたら最後にプレゼントがありますよ」ですって。
 私はてっきり、ロマンチックな城の庭園で色とりどりの卵探し・・・などと予想していましたが。よし、こうなったら全問正解を目指してがんばろう! 設問の印である卵のイラストが貼り付けてある箇所を探して、親子3人繰り出しました。

 とはいえ質問はかなり難しかったのです。
《この礼拝堂は、ある王により発案されましたが、一体どの王だったのでしょう?》
 ヴァンセンヌ城にある礼拝堂、どこかで見たなぁと思ったら、パリのシテ島にあるサント・シャペルをまるっきり模したものでした。さぁ、一体どの王様が? 親子三人でシャペル正面に目を凝らすと、飾りの一部に“火トカゲ”が彫ってありました。
 「あっ、あれどこかで見たことあったよ!」ケイが指差します。「どこかのお城で・・・」「わかった、フランソワ1世の紋章だ、ロワールのお城にもあったね!」と夫。
 その後もまるで、城にまつわる歴史の勉強のような質問ばかり続きました。ケイが答えを記入しているのを見て、「去年は字も書けなかったのに、今年はちゃんと書けるようになって・・・たいしたもんだわ」と私がほろりとしていると、夫は、
 「そんなミミズがはったような字を書くんじゃない、ちゃんと読める字を書くんだ」
 「いやだー、学校みたいだ、ヴァカンスなのに!」とケイ。
 そう、復活祭のこの時期は学校も2週間ほどお休みなのです。
 とはいえ、子どもたちもお城が大好き。とくにこのヴァンセンヌ城には52mもある、中世建築にしてはかなり高層な“ドンジョン”と呼ばれる城塞があります。これなどはまったく、ケイの大好きな“シュバリエ 騎士”が今でも住んでいそう。矢を放つ隠し穴や、敵が攻め入ってきたときに煮え湯をふりかける場所も、そのままの状態で保存されているので、その場の男の子たちはやけにモノ知り顔で「ここはね・・・」と親たちに説明していました。
 さて、最後の質問《城塞内のシャルル5世の祈祷室の窓から見えるものは?》
鉄格子の入った窓は、ケイには高くて届きません。お父さんがよいしょと抱えて窓の外を見せてやると、「あっ、おっきな鐘がある!」
 そう、この鐘も実は復活祭を象徴する小道具であるのです。伝統では復活祭の始まる聖木曜日から、聖日曜日まで、すべての教会の鐘は鳴らされることを禁じられていました。そして聖月曜、キリストの復活を祝っていっせいに鳴らされていたのです。

 艱難辛苦の質問を乗り越えて、最後には答え合わせをするテーブルも用意されていました。でもそんなの待てない! もらったチョコレートの卵のひとつを、ケイはぱくっと口に放り込んでしまいました。


さあ、答え合わせです




  ポワソン・ダヴリル『四月の魚』 


色とりどりの飾り玉子





質問に取り組む子供たち


質問10はこちらですよ


中世のこんなお城で


鉄格子越しに見えるものは


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