ケイのわんぱく物語
日仏ダブルの小学生ケイ君が送る、パリの子供たちの元気な日常。



セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
第5回  パリの子ども図書館 2009.03エッセイ・リストbacknext
 

  ある冬の日の午後、ぐるぐる巻きのマフラーに手袋、毛糸の帽子をしっかりと被って、公園にやって来た私たち親子、吐く息は真っ白です。地面はすっきり掃き清められていて、秋にあんなに散り積もっていた枯葉の山も姿を消し、あたりはしんと静まりかえっています。
  「誰もいないね」
 いつもの遊び場所に来てみましたが、子どもたちの姿はどこにも見当たりません。今日は水曜日で、学校はお休みなのですが、Centre Loisir (サントル・ロワジール)と呼ばれる、学休時に子どもたちを校内で預かる国のシステムもあるので、両親が働いているコパンはそこに行っているのかもしれません。それにお稽古事をしているコパンもたくさんいるし。
 でもそのうち誰か来るかも知れない、ケイは持ってきたボールを蹴って遊び始めました。私は近くのベンチに座り、空を見上げました。葉をすべて落とした木々の枝から、灰色の空が透いて見えます。こんな、枝ばかりになった木々を見るのは大好きなのです。まるで大地から突き出たアンテナみたい、おまけにこのアンテナの先には硬い小さな芽がびっしり、新しい命で溢れています。
 「お母さん、やっぱり誰も来ないよー」
 駆け寄ってきたケイが困った顔で訴えるのを、私はしばらくじっと見つめていましたが、「よし、じゃあ図書館にでも行ってみよう!」「うん!」嬉しそうにケイがうなずきました。

 パリ市内20区には成人・子ども用合わせて、58の公共図書館が置かれ、誰でも利用できるようになっています。貸し出しには、図書館カードを作成し、1枚の図書館カードで3週間、書籍・雑誌・漫画・CD・DVD各5冊まで借りられます。夏の休暇になると、各8冊まで6週間、借りることが出来るのですよ! 開館日は火曜日から土曜日まで、水曜日と土曜日は、朝10時からの開館で19時までですが、そのほかは学校が終わる16時からの開館になっています。また市が運営している図書館のインターネットのサイトでは、書籍の検索や、予約、貸し出しの延長が出来るサービスも行われています。
 公園からも程遠くないところにある区の図書館は、外観は石造りの19世紀建築ですが、中は近代的に設備された、区民のための活動施設です。地階にある幾つかの部屋では、ブリッジや、チェスなど、曜日によってさまざまなクラブ活動が行われており、引退後のお年寄りたちの社交場になっているようです。子ども図書館は3階にあり、エレベーターで着くと、入り口に乳母車がたくさん、子どもたちの外套も洋服がけに架かっています。なんだ、みんなここにいたのか。

  「ボンジュール!」受付にいた司書のシルヴィとは、ケイが3才の時に図書館カードを作って以来の付き合いです。中に入ると、書架のあいまに子どもたちが思い思いの姿勢で本を読んでいたり、本を探していたり、室内はポカポカと暖かく、冬のこんな寒い日は、絶好の図書館日和、なのですね。
 また、雨の日の放課後も、よく繁盛します。放課後訪れるときは、小学校高学年の子どもたちが、窓際のテーブルで友達と一緒に宿題をしている姿もよく見かけます。辞書も資料もその場にあるので便利なのでしょう。中には家庭教師と一緒に勉強している子もいました。
  「僕、マンガ読んでくる」
 そう言ってケイは、すたすたと漫画本のコーナーに行って本を選び、床に設えてある四角いソファのひとつに腰を落ち着けると、ページをめくって読み始めました。最近のお気に入りは『Lucky Luke リュッキーリューク』隣りでは同じぐらいの年の女の子が『Schtroumpfs シュトルンフ 』を読んでいます。こちらの漫画本はA4版のオールカラーで、日本の白黒の小さな漫画本とはだいぶ違ったものになっています。

 図書館では、奥にあるサロンでいろいろな催しも行われています。童話の読み聞かせや、小編映画の上映会、絵本にまつわるお絵かきコンクール、高学年の子どもたちには毎月1冊の本を決めて読書し、読後討論会をする読書クラブ、絵本作家を招いてのサイン会など、子どもたちが楽しんで図書館に足を運べるよう工夫されています。
 最近では、挿絵画家のジェルダ・ミュラーさんの講演会に遭遇しました。ずっと彼女の挿絵が大好きだった私は、思わぬ出会いに大感激。即売されていた絵本にサインと絵まで添えてもらいました。色鉛筆で魔法の配合のように生き生きとした、金髪巻き毛の少女が描かれ終わったとき、見ていたケイは「わぁ、かわいい!」 「大事にしてあげてね」とジェルダ。そのとき私は、この少女はきっとジェルダ自身だったに違いないと、艶のある真っ白な巻き毛の横顔を見ながら思ったのでした。

 「お母さん、今日借りられるの?」たくさんのマンガを抱えたケイがやってきて聞きました。「今日は無理ね、だって家にあるのをまだ返してないし」「じゃあ今からすぐ帰って返しに来よう!」
 結局その日は2回、図書館に行き来しました。幸い住んでいるすぐ近くに図書館があるものですから、行ったり来たりは苦ではありません。彼の生活の中に、図書館という存在とその利用法が根付いたことを私は嬉しく思っています。


ジェルダ・ミュラーさん 子どもたち一人一人に丁寧に
話しかけて献辞を入れているのが印象的でした。


ジェルダ・ミュラーさんの絵本を「パリのおみやげ 3月」
で紹介しています。抽選で2名様にプレゼント。詳しくはこちら。


冬空とアンテナ。 


 図書館の入り口 


漫画はヒーローごとに陳列されています。
おなじみのタンタンはTの棚



本大好き!


好きな姿勢で読みます。


「リュッキーリューク」はフランス産の西部劇、森に住む青い小人たちが「シュトルンフ」。ベルギーの有名な漫画家Peyoによって描かれました。


図書カード。
BはBibliothequeビブリオテック(図書館)のB!


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