パリ大好き人間の独り言、きたはらちづこがこの街への想いを語ります。



セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
第15回 女の庭(その2)  2004.04 エッセイ・リストbacknext
 話は公園に戻る。
 普段の私の生活はどうしても右岸(セーヌ川の北側)が中心だから、5区6区へと足を伸ばすのは、何かの用事ができたときだけだ。そのせいもあって、この時とばかり、つい寄り道をしてしまう。その日もスフロ通りの画材屋さんへ行ったついでに、と公園の黒い鉄柵をくぐると、城の東側の小さな噴水のところで、エコール(学校)帰りと思われる6歳くらいの男の子とお父さんの二人連れにすれ違った。「これなあに?」とお父さん。すると坊やは間髪を入れず答えた。「メディシスの泉」。
 どこの国にも、教育ママ(パパ?)はいるもんだ・・・なんて勘違いをしてはいけません。お父さんが問い掛けているのは、歴史の教科ではなく、パリ人の生活。フランス人の中に、このパリの空間に、自然に溶け込んでいる昔の人々の長い長い物語のひとこまである。
 こんな時、私は本当にこの地に生きる人々が羨ましくなる。生活の中に常に歴史が組み込まれていること、連綿と続く人々の営みの延長上に今の私たちがある、ということを肌で感じられるのはとても素敵なことだと思う。
 そういえば、友人のドミニックと、石楠花の花の話をしていた時にも「パリの中なら、ね。メディシスの泉の横にすばらしい植え込みがあるわよ」と、泉の存在は周知の事実だと言わんばかりの口ぶりだった。そう、まさにこの庭をマリも歩いていたのだ。この泉の水に己の姿を映したかもしれない。イタリア式に作られた噴水は、マリの激しい気性を少しは鎮めたのだろうか・・・。
太り肉の特徴あるマリの姿が急に思い出された。

 リュクサンブールの庭には、たくさんの彫像がある。そのほとんどが女性の立像だということに気が付いたのは、マリー・ド・メディシスのことをルーブルで知ってからだった。宮殿正面の八角形の噴水と周りの芝生はやや低いところにあるが、数段上がった所に、石の欄干が大きな円を描いている。それをさらに取り囲むように庭は作られているのだが、欄干に沿うように、白い立像がいくつも並んでいる。その中に一目でマリと判る像がある。その隣はアングレムのマルグリット(1492-1549:国王フランソワ1世の姉、ナバール国王妃)、そしてその隣の隣はアンヌ・ド・ボジュー(1460-1522:国王シャルル8世の姉であり、摂政を務めた)。城に近い方にはマリ・ステュワール(1542-1567:国王アンリ1世とカトリーヌ・ド・メディシスの息子、後の国王フランソワ2世に嫁したもののすぐに未亡人となって英国に帰った悲劇の女王)、「あら、これが、あのお妃様・・・」
 パリの守護聖人であるサント・ジュヌビエーブも、ちゃんと選考にもれず、城のすぐ側に立っている。彼女はいつでもどこでも(ノートルダムの裏手のセーヌ河岸にも像があるし、パンテオンの壁画にも描かれている)清楚に表現されていて、パリの人々の彼女に対する憧憬がわかるような気がする。
 これらの像はほとんどが1840年代、つまり、名実共に最後のフランス国王となった、ルイ・フィリップの晩年に作られているが、当時の人々は女性のパワーの台頭を感じていたのだろうか。それとも、七月王政、第二共和政、第二帝政と目まぐるしく変化する不安な時代の神頼みならぬ女性頼み・・・??

 そして、案外誰にも知られていないのだが、西側の植え込みの中には、小さな「自由の女神」像がひっそりと立っている。アメリカの独立百年(1886)を記念してフランス国民が贈った、あの、マンハッタンの女神像の原型だ。パリの、それも学生街やモンパルナスに近い地域とは思えないほど静かな空間に、女神は毅然として立っている。でも、公園の中でも端っこのほうだから、訪れる人はずっと少ない。いかにも地域の住人と思われる人だけが時折横の小径を足早に通り過ぎる。座る主のない、緑のスティール椅子が無造作に投げ出されている。
 女神像に近づくと、横に添え木が施された一本の細い木が目に入った。
「2001年9月11日の犠牲者のメモワールとして」
 セナ(上院)の議長とアメリカ大使が4ヵ月後に共に植えた若い樫の木は、まだ堅い木の芽をつけながら、空に向って、一生懸命枝を伸ばしている。
 悲惨な21世紀の幕開けであった。そしてあれからも世界は混沌とし続けている。人々はいまだに過ちを繰り返す。
 なんとかして女性の力で、少しでも良い流れが作れないものだろうか・・・。女の庭を歩きながら、私は心の底からそう願っていた。
 

Marie de MedicisSte.Genevieve自由の女神と若木
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