パリ大好き人間の独り言、きたはらちづこがこの街への想いを語ります。



セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
第30回  2005.12 エッセイ・リストbacknext
 ある日、一斉に街じゅうの花壇が冬景色となる。商店街のウィンドーがもみの木の枝のような装飾で飾られる。シャンゼリゼを初め、いろいろな通りで白色豆電気のイリュミネーションが輝き始める。仕事がのろい人々(南仏に暮らしたピーター・メイル氏の著作の中にもあったけれど、フランスの職人さんたちの急がないことはとても有名!)が汚名返上とばかりに、たった一日でノエル(フランス語でクリスマスのこと)のための「化粧直し」を成し遂げるのは、本当に驚きである。
 なんでも、「その日」はパリ市できちんと決められているらしく、とにかく、あちらもこちらも、ある日突然、街はすっかりクリスマスモードになっていて、まるで、夢から覚めた浦島のような気分になる。
 最近は、白いペースト状のものを吹き付けた、まるで雪をかぶったようなもみの木が流行っているようで、植え込みに、それが並ぶと、「夜中に雪が降ったのかしら?」という錯覚にも陥る。パリの12月は冷たい空気がピーンと張っていて、雪こそめったに降らないのだけど、樺太と同じ緯度の高さを実感するのも、そんな時だ。

 デパートや街中のブティックが、クリスマス商戦ということでにぎわうのはどこの国も同じようだが、住宅地の小さなお店やマルシェも、それなりに「演出」されて、大人も子供もなんとなくはしゃいでいるような雰囲気になるのが12月のパリかもしれない。
 我が家の近くの教会の横の、少し太い歩道に、にわか《クリスマス市》が出現するのに気がついた時は、とてもうれしかった。それは、毎日パンを買いに行く、ビナールさんのお店の、一本横の通りだから、帰りに遠回りをして、必ず市を覗いてみる。
 ドイツやフランス東部ストラスブールの《クリスマス市》はつとに有名だが、パリで、こんな風な、のどかな、懐かしい光景は初めて見た。50メートルくらいに亘って、左右に小さな木の小屋が並んでいる。クリスマスツリー用のデコレーション小物、手作りアクセサリー、木彫りのインテリア小物、ろうそく等など、一軒一軒が、それぞれ特徴のある商品を並べている。クレッシュ(イエス・キリスト誕生のシーンのミニチュア人形)はイタリアには負けるし、蜜蝋のろうそくもドイツの方が感動的だけど、フォアグラ専門店とか美しい刺繍を施したリネン類のお店で面目躍如。

 遠くにちょっと変わったクリスマスリースを見つけ、近づいてよーく見てみたら、それは藁でできていた。もみの木やヒイラギみたいに、青々とした立派なリースではない。でも、光沢のある美しい藁を巧みに編みこんで、とても独創的な装飾品になっていて感激した。
 夏の終わりに郊外をドライブすると、刈ったばかりの広い牧草地に、大きな藁の固まりが、まるで地ならしをする巨大ローラーのようにぐるぐると巻いてあって、私も夫も、そのごろごろころがる藁たち(これは牛の食糧なのだろうが)を見るのがとっても好きなのだが、まさか、あれと同じ藁ではあるまいに!
 その時、星の形や雪の結晶型に編んだ小さなオーナメントが、本当にキラリと光った気がした。
 赤ら顔の気のよさそうな、いかにもお百姓といった風体のおじさんが、「毎年秋になると、ボクの奥さんが作るんだよ。それでボクは売る係り。いつもここに店を出してるよ」と言った。
 「ねえ、すごくきれいだけど、写真に撮ってもいいかしら?」と私。
 「だめだめ、これ、《企業秘密》だからね」
 赤ら顔をもっと赤くして、おじさんは、すごーく嬉しそうに手を振った。

 フランスは、カトリック国ではあるが、スペインやイタリアのように敬虔なる信者はさほど多くないようだ。でも、やはり、ノエルだけは別。学校はその前後から休暇に入るし、普通の休日なら休まない美術館や名所旧跡も12月25日にはしっかりお休みをとる。24日の夕方までで、《クリスマス市》もおしまい。夜は家族、親類が揃って家でゆっくりと食卓を囲み、25日のパリは、日本でいえばお正月のような、すがすがしい静けさとともに目を覚ます。

クリスマス市


藁の固まり


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