パリ大好き人間の独り言、きたはらちづこがこの街への想いを語ります。



セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
第42回  2007.12エッセイ・リストbacknext
 乗っていたメトロ(地下鉄)が、何のアナウンスもないまま、5分たっても動かない。平日の午後3時くらいのことで、大して込み合った車内ではなかったし、ラッシュ時とは客層も違い、急ぐ人もいなかったのだろうか、止まっていることにさえ誰も気がつかないような、のんびりした時が流れていた。
 そのうち、正面に座っていた中年女性が誰に言うともなくぼそっと、「どうしたのかしら……」と声にすると、横の方から怒りとも諦めともつかない、妙に堂々とした声音で答えがあった。
 「いつものことよ。」
 日本人である私は、異常に長い停車時間が気にならない、ではない。だからと言ってどうにもならないことも承知しているから、文庫本を読んでいた。
 本当にそうだ。「いつものこと」。
 そのうちに「電車、システム故障で止まっております。もうしばらくお待ちください」というアナウンスが流れ、そして、それから少しすると、何事もなかったようにまた走り出した。
 これが、パリのメトロである。「**号線、乱れています。しばらく電車がきません」というようなアナウンスも、ホームで時々耳にする。

 ラテン系の人々は、陽気で、大らかで、小さなことは気にしない(と言われているし、私も概ね同感)。それは、メトロのこれらのシーンでも発揮されているようだ。

 その反対にあるのが東京の電車。たまたま先日、「お客様には大変ご迷惑をおかけしております。忘れ物を捜しておりますので、発車が遅れますことをお詫びいたします」と放送するやいなや走り出し、「30秒遅れての発車、ご迷惑をおかけいたしました」と続いた時には、いささかびっくりした。
 何もそこまで謝らなくても、と思った。なんだかかえって窮屈。誰も気づきやしないのに、とラテンボケした頭で思った。
 

 「時」に対する感覚の微妙なズレを最初に認識したのは、30年も前のこと、この国で生活を始めて、比較的すぐのことだった。最初は、私も「時間に厳しい日本人」だったから、テレビのアナウンサー(しかもニュース!)が、「今**時です」と言ってから、のんびりとした声で「だいたーい」という言葉を付け加えた時には、本当にびっくりした。まさにカルチャーショック。日本のテレビが、画面いっぱいに時計を映し出し、秒針が一針一針動くのを見せてから、まさに一秒の狂いもなくニュース番組を始めるのに慣れていた身には、まさに晴天の霹靂だったのだ。
 でも、20代だった私は、その後、何年かフランスで生活をするうちに、「拘らないことの大切さ」のようなものを身につけるようにもなった。1秒2秒、間違って聞いた(知った)として、それがなんなのだろう?……と。正確なのは、大晦日の夜、新年に変わる時の1秒くらいでいいんじゃないだろうか?……なんて。
 「晴天の霹靂」は「目から鱗」といった感じで、私を都合よく納得させたのだった。普段、細かいことを気にしないから、特別の一瞬一瞬に意味がもてるんだ!!……なんて。

  もっとも、そう思いつつも、幼い頃から身についた習性は変わらない。だから、電車はできれば定時に発車してほしいし、やっぱり時間には正確でいたいと思っている。そして私のフランス人友人たちもほとんどが日本通だから、ちょっと約束の時間に遅れたりすると、血相を変えて「ごめんなさーい、遅くなって。」と走ってきたりする。そして「あら、気にしないで。ここはフランスよ」と言う私に、「日本人は本当に正確だから、待たせてはいけないと思うのよ」と恐縮してくれる。それもまた気持ちがいい。



セーヌ川の上を流れるのも、
パリならではの"時"だろうか?



左岸の待ち合わせスポット、
サン・ミッシェル広場の噴水



パリ市内のあちらこちらにある街頭時計。
修理されず止まったままのも多いが。

 
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