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生活する場所は、作風に影響しますか? パリでの制作活動には「パリっぽい」特徴が現われるのでしょうか?
パリ、自宅のアトリエ空間
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3~4歳の頃、自分はフランス人だと母に言ったそうです。だから、もしかしたら作風は生まれたときから「パリっぽい」のかもしれません。
「パリっぽい」という解釈ですが、これは皆さんとちょっと異なるかもしれません。
私はどこにいても下町が好きです。「パリっぽい」といえば肉屋の親父がぶつぶつ言ってるような雰囲気なんです。私の生まれた新川町は、まさにその「パリっぽい」雰囲気でした。小さな店が並び、八百屋さんが毎朝店の前を掃除して。私は、タバコ屋を営んでいた祖母の膝の上で、行きかう人に「こんにちは~」と言っていたそうです。
新川町の「パリっぽい」雰囲気はもう無くなってしまいました。大型スーパーに押されて、小さい商店は全部つぶれたんです。「パリっぽい」ものって私の故郷のことなんです。どこに住んでもこの「パリっぽい」もの=故郷っぽい何かを作ってるのかもしれまん。
12、パリに移住する前にも頻繁にパリを訪れていたReikoさん。パリの昔と今、変わったところは?
昔から裏町方面のパリが好きでした。
レ・アールが魚屋でいっぱいだった30年前も知ってるんですよ。グット・ドール通り(18区)界隈が死ぬほどスラムだったころにもクスクス食べに来てます。
16歳の時、この都市にはまりました。ただ、華の都パリってのは幻想でしかないような気がしてますよ。私のパリは、移民がうじゃうじゃいる都市なんです。
モンパルナス周辺の開発でいろんなアトリエがつぶされてしまったことはとても残念です。つまり嫌なのは、やはり古き良きものが壊されていくことですね。時代の流れに敏感すぎる東京やニューヨークに比べれば非常に近代化がゆっくりなので、パリに住んでいて良かったと思います。変わってほしくないですね。意識だけはグローバルになってほしい、でも風景はちゃんと取っておいてほしいんです。
パリはなんだかんだ言っても美しい。モンパルナスタワー以外はね。
13、 今のパリの楽しみ方は?
旅行者の方には「ガイドに書いてあることだけを信じないで」と言いたいですね。
パリは中心部だけ安全で、他は安全でないから行ってはだめ、なんて書いてある。中心部のほうがスリの被害は多いのにね。
シテ島も素敵だけど、11区や18区なんてあたりがオツだし、ファッションの流行発信地として今、”きてる” ポイントなんです。グット・ドールは近代化されちゃったんですが、なんだか面白い店ができ始めてます。サン・ベルナール教会の辺りにも発信源になりうる要素がいっぱい。パリ・コレクションで、この辺りでもショーが開催されるなど、知る人ぞ知る〈じわじわ震源地〉なんです。
シャンゼリゼに行って、その後ローマに入る旅行者がいっぱいのパリですが、本当の楽しい場所は、ガイドに書かれていない、隠されたところにあるんですよ。
14、 住んでいるカルチエはどんな雰囲気のところですか?
実は、映画「アメリ」の世界に一番近いカルチエです。
アメリは実に良くできていて、時代に先駆けて様々な〈じわじわ震源地〉を紹介しちゃってるんです。現実と何が違うかと言えば、みんな白人ばかりの世界にできてる。私の現実のアメリ・カルチエは黒人だらけ。アラブ人もいっぱい、中国人もいっぱいです。アメリを撮ったジュネは、「自分の幼い頃のパリ」みたいなものを表現したかったので全部白人となっていますが、本当のアメリのカルチエは、移民の世界。
私の住んでいるモンマルトルの裾野は、インド街、アラブ街、白人街、黒人街、中国人街に挟まれた多国籍街。すごく面白い所です。
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