Ile de la Grande Jatte (グランド・ジャット島)は、パリ市から1.5kmほど北西に出たところ、ブーローニュの森の北方向に位置します。ヌイイ市とルヴァロワ市にまたがる全長2kmほど、短い方は200mほどしかない細長い形の、セーヌに浮かぶ小さな中州です。小さな島とはいえ、きちんと区画整理されて企業ビルや家やアパルトマンが立ち並んでいます。でも島が住宅に占拠された感じがしないのは、島をグルッと回る遊歩道と自転車専用道、そして公園、広場、競技場、テニスコート、とうとうと流れる豊かなセーヌに、限りなく広がる空・・・と、リラックス要素がそろっているからなのです。
印象派が最先端だった時代、多くの画家がパリ周辺やセーヌ河畔を描きました。点描主義のジョルジュ・ピエール・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」は、彼の最も有名な作品です。スーラは光を絵の具で表現することを科学的視点から研究し、理論的に制作したことで印象派のさらに先をいった画家でした。産業革命によって労働者階級ができ、ブルジョアという中産階級ができた時代。縦2m、横3mの大きな画面に、まぶしく降りそそぐ太陽の中、グランド・ジャットで和やかに日光浴を楽しむブルジョアたちの姿が描かれています。1891年に31歳の若さで亡くなったスーラが26歳のころの一枚です。
同じ時代を生きた印象派画家アルフレッド・シスレーはパリ生まれのイギリス人で、生涯の大半をフランスで過ごしました。パリ周辺を好んで多く描き残し、グランド・ジャット島も題材にしました。生前に絵はなかなか売れませんでしたが、セーヌ流域の光をぬくもりのあるタッチで表現した色彩は時を越えて私たちの心に染み渡ってきます。現在、グランド・ジャット島に“アルフレッド・シスレー広場”と名付けられた小さな一画があります。1999年にニコラ・サルコジ氏によって落成式が行われました。
印象派の巨匠たちに愛された時代から100年以上も経った現代の、日曜日の午後、グランド・ジャットへ散歩に出かけました。寒い薄曇りの空模様でしたが小さな島はとてもたくさんの人、そしてたくさんの犬で賑わっていました。余暇をとても大切にするパリ人は、のんびり散歩、ジョギング、サイクリング、ローラーブレード(根強い人気!)、芝生に座ったりベンチで本を読んだり、犬とボール遊びしたり・・・と、思い思いの休日を過ごしていました。子どもが遊べる遊具もあり、家族連れも大満足できます。
時代背景は変化しても、グランド・ジャットには今も昔と変わらない穏やかな憩いの時間が流れています。パリの喧騒から少し離れて、ゆっくり深呼吸してみてください。 |
ジャット公園
スーラ「グランド・ジャット島の日曜日の午後」;シカゴ美術館所蔵
シスレー「グランド・ジャット島」;オルセー美術館所蔵
アルフレッド・シスレー広場 |