ミステリアスな映画の作風からカルトの帝王として、新作を発表するたびに話題をさらってきたアメリカ出身の映画監督デヴィッド・リンチ。彼が青年期より書き溜めてきたデッサン、クロッキー、写真、ビデオ、フォトモンタージュなどの展覧会がカルティエ現代美術財団にて開催されています。造形美術作家として彼の活動はあまり知られていないせいか話題を呼んでいます。
1946年モンタナ生まれのデヴィット・リンチは、もともとペンシルバニアの美術アカデミーで画家になるべく勉強していたのですが、短編アニメを作ったことを機に映画制作を始め、1977年の「イレイザーヘッド」で一気に脚光を浴び注目され始めました。
19世紀末のロンドンの実話をもとにした作品で、生まれつき醜悪な男の半生を描いた傑作『エレファントマン』(1980年)や、真夜中に起こった交通事故から謎が始まるミステリアスな作品でカンヌ映画祭監督賞を受賞した『マルホランド・ドライブ』(2001年)
など、彼の作品を見たことある人は多いはず。美しいイメージと、見終わった後の、はて??と謎を解きたくなってしまう作風から多くのファンを持っています。
このデヴィッド・リンチの功績を紹介しているのがカルチエ財団の有能ディレクター、エルヴェ・シャンデスです。幅広いジャンルの、さまざまな国籍のアーティストを紹介してきたシャンデスが、膨大なリンチの作品群の中から厳選して展示。60年代の青年期に手がけた作品もあるといいます。
厳選したとはいえ、展示作品は500をくだりません。ペーパーナプキン、ホテルのメモ用紙、ポストイット、映画台本の隅、そしてノートの切れ端にまで、ボールペンや鉛筆でびっしりと描かれたデッサンや幾何学模様に圧倒されます。思いつきで描かれたものもたくさんあると思いきや、大変リアルに描かれた模様、この世のものとは思えない(?)物体などなど、時には彼の名前や単なる文字、メッセージなども見つけました。
ひとつの創作の始まりはひとつのアイデアから始まる、とリンチ自身も言うように、これらの膨大なデッサンが映画創作のヒントになっているのでしょう。
ペインテイングの展示場では、天上からつるされたカーテンとともにキャンバスを展示。「ボブはサリーの気が滅入るまで愛する」と題されたシュールな作品や、女性用の下着、ピストル、布などを貼り付け描かれた作品など、ある意味グロテスクなのですが、なぜかユーモアも感じられます。
また地階での展示では1840−1940年代のエロテイック写真を彼自身がフォトショップで加工しフォトモンタージュした作品、工場跡でとられた白黒写真、短編アニメーションなど、日常をテーマにしながらも現実と非現実の間を揺れ動くこれらの作品の中には、彼の映画の世界観にも通じるものが見えます。とはいえ、彼らしくまたここでも、観客に謎解きを投げかけているのでしょうか――「君は私の考えていることを知りたいのかい?」と題されたペインテイングは、リンチ監督のメッセージのようにも読めます。あなたもリンチ・ワールドで謎解きをしてみませんか。
展覧会名称(原文): David Lynch “The Air is on Fire”
会場:カルティエ現代美術財団(Fondation Cartier pour l'art contemporain)
261, Bd Raspail 75014 Paris, France
tel: +33 (0)1 42 18 56 50
アクセス:地下鉄 4 もしくは 6番線, Raspail (ラスパイユ) または Denfert-Rochereau (ダンフェール・ロシュロー)
バス: 38, 68
会期:3月3日から5月27日まで
開館時間:11時から20時(木曜日は22時)まで 月曜日休
料金: 大人: 6.50 ユーロ 割引料金(25歳以下,会員、失業者): 4.50 ユーロ
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カルティエ現代美術財団
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