春風に誘われて、堪能するパリのアートシーンはお散歩気分。(No.３ 2003.5)
フィリップ・スタルク展　｜知られているシャガールと知られていないシャガール展｜ルネ・マルグリット展｜ニコラ・ド・スタール展

パリでシャガールといえば、オペラ・ガルニエの幻想的な天井画を思い出す人は多いだろう。そのシャガール、意外に久し振りの大規模回顧展。亡命ユダヤ系ロシア人アーティストは、キュビズム、シュルレアリズムなどの運動と戯れながら、フランス、アメリカ（亡命）と活動の場所を移していくことになる。そこにはユダヤ的フォークロワからメシア思想など、様々な世界が息づく。約１５０点に及ぶ作品が、時代ごと５つのセクションに分けられ、巨匠の軌跡を追う。ファン必見！

マルグリットといえばシュルレアリズム、シュルレアリズムといえばマルグリット。だれだって青空に羽を広げるトリの一羽ぐらい思い出せるだろうに、意外にパリでは２３年振りの展覧会だとか。現実世界の重力に逆らうような、不思議な質量のアイディアを次々に作品化していったマルグリット。彼の新しい概念は、その後のポップアート、コンテンポラリーアートに連なっていく。２１世紀を迎えて、相も変わらず不条理な世界情勢を生きている今、改めて見直すと不思議なインパクトがある。

抽象と具象を揺れ動き、ロシアからパリ、そして享年４１歳で自殺によってアンチーブのアトリエで生涯を終えてしまったニコラ・ド・スタール。近年ますます評価される同画家の大規模回顧展。こてやナイフからうまれるぎこちなさ、色彩、フォルムなどに対する執拗さが、彼の作品のタッチをリードしていく。あえて描き方を限定することによってうまれるトーンは、陰影豊かに、時にユーモラスでさえある。特に後年、具象に戻り、形態は厚塗りでありながら、まるで重力に逆らうように軽やかである。この素材や絵画的空間に対する繊細な感性は、観賞する私達に大いに語りかけてくる。今期、最も注目されている展覧会である。