グラン・パレ「デザイン対デザイン」展では、300点ほどの様々なスタイルの家具やオブジェが世界各地から集められました。1800年代の産業革命期から今日までに渡る2世紀間にスポットを当て、デザインの中に <サプライズ> や <対話> が創作されていった歴史を、形、様式、原点、環境という四つのカテゴリーに分けて紹介するものです。
エクスポジションオープニングでは、日常生活のデザイン家具を紹介します。スタンダードな直線や美しい曲線で構成された、シンプルなテーブルやユニークなベンチ、従来の概念に捕らわれないフォルムのブックシェルフ、すっきり洒落たフォークやスプーンのセット。前衛的なデザインのオブジェは現代美術作品のようにも思えますが、1800年代や1900年代初期の制作も少なくありません。当時ナイロンやメタルが使用されて作られ、今見てもモダンな佇まいを見せる家具は、その後、素材の可能性も無限に広げていき、近年ではステンレスやポリウレタン、グラスファイバー、コンクリートなども自由自在に加工されて使われるようになりました。
デザイナーの意識は次第に家具の固定イメージから離れていきました。未来のオブジェのような「アート家具」が時に実験的に創造され、進化していく様子がわかります。
「Environnements 生活を取り巻く環境」というカテゴリーでは、何とも楽しくて尋常でないクレイジー・デザインのオンパレードになります!
巨大なネコ型バー(魚の尻尾や蹄もあるのですが!)や、ダチョウのバーテーブル、シルクのビロードで作られた薔薇の椅子、イカロスの翼の形のランプ・・・。圧巻は、赤いサソリのように腕を広げた巨大なオブジェですが、これはなんとシャワーやベッドルーム、冷蔵庫、トイレまでも揃った住まいで「子宮の家」と名付けられたものです。かつてサルヴァドール・ダリや詩人のトリスタン・ツァラらシュールレアリストたちは、<出生のトラウマ>
を抱き、子宮の内部という建造物を夢見ていました。そして現代のデザイナーは、この想いを実際に形にしてしまいました。プロダクトデザインと建築と、思想と遊びゴコロ満載のアートが溶け合った作品になっています。
工場での大量生産によって、産業とデザインが分離する傾向にあった産業革命の後、<機械技術と芸術の融合> を目指したバウハウスが1900年代に起こりました。その流れを受け、大量消費社会を背景として <生活に根ざしたデザイン> が生まれていった1960年代、そして <多様性> を掲げた1980年代 “ポスト・モダン” へとデザインの形が移ろう中で、「デザイン」という言葉の意味合いは変化していきました。「きれいに描かれた線」さらに「ある性向を持つオブジェ」と同義の言葉となり、定義が曖昧になっていったのです。常に時代の先を見つめてきたデザインは、“使う” という機能性だけの追究ではありません。それが生活を豊かに彩るエッセンスでもあり、またそうありたいと願うデザイナーの意思であることが、今回のエクスポジションを通じてもよくわかります。デザインは、美術、モード、工業意匠、建築、シネマ、バンドデシネ、あらゆる形態の芸術の中に存在します。それはまたアーティストのロマンやユーモアの表現でもあるのです。
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